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大豆由来乳酸菌発酵物の脂質吸収抑制作用

東京海洋大学大学院 海洋科学技術研究科  小山智之、城崎美幸

はじめに

小山智之

腸管は食事由来の栄養素を体内に吸収する場として重要であり、その働きに影響を与える生理的環境要因の一つである腸内細菌叢は、その吸収能に影響を与え宿主の健康や疾病にも深く関与すると考えられている。
Fullerが1989年に提唱した「腸内フローラのバランスを改善することにより、宿主に有利な作用をもたらす生きた微生物」であるプロバイオティクスという用語は、現在では腸内環境を整える概念として広く受け入れられている。

プロバイオティクスの他にも、光岡が1998年に編集した書籍において、プレバイオティクスとバイオジェニックスという用語が提唱されている。
プレバイオティクスは腸内において乳酸菌の生育を助ける作用を持つ成分としてオリゴ糖や食物繊維などの成分が該当し、これら成分によって間接的に腸内細菌を介さずに直接に宿主に働きかける機能性成分とされるが、現在では主に身体の内外で行われる発酵過程によって微生物により生産され、腸管免疫や生理活性作用を介して宿主に直接働きかけることで、さまざまな疾病の予防や改善に資する機能性成分と捉える向きもある。

たとえば、血圧が高めの方に向けた特定保健用食品の関与成分としても認められているラクトトリペプチドやGABA、血糖値が高めの方に向けた特定保健用食品として認められている豆鼓エキスなどは、発酵によって生産された成分が機能性を示しており、発酵食品のバイオジェニックスが人々の健康を維持することに大きく貢献できる可能性が具体的に示されつつある。
また、乳酸菌自体の研究も広がりを持って進められており、免疫性サイトカインの生産抑制作用、血清脂質レベルの調節作用、抗糖尿病作用などさまざまな健康増強作用に関する実験データが示されている。
今後もさまざまな生理作用を有する関与成分が乳酸菌発酵物に見出されるものと期待される。
本稿では、豆乳を培地に乳酸菌で発酵した「乳酸菌発酵物」に着目して、さまざまな生理作用を検討した結果、マウスにおいて血中トリグリセリド値上昇抑制作用が見出されたので、その実験データおよび予想される作用メカニズムについて紹介する。

1.材料と方法

1)試験サンプル

本研究で用いた大豆由来の乳酸菌発酵物(以下、大豆由来発酵物)は、(株)光英科学研究所から入手した。
無農薬大豆をペースト状にした原料に、Bifidobacterium属、Lactobacillus属やLactococcus属の微生物16種35株を共棲培養させた混合乳酸菌液をスターターとして加え、37℃にて120時間発酵させたものを発酵120時間サンプルとした。
さらに本実験では、発酵開始直後に停止させた発酵0時間サンプル、原料の大豆ペーストである豆乳サンプルを比較のために用いた。

2)実験動物、飼育、管理

雄性ddYマウスは5週齢のものを日本SLCから購入し、訓化のために一週間予備飼育を行なった後に実験に用いた。 マウスの飼育環境は、温度25±0.5℃、湿度60±3%に管理しており、1つの飼育ケージに4または6匹を入れて飼育した。
明暗周期はAM8:00~PM8:00を明期として24時間サイクルとし、水(水道水)及び飼料(MRラボストック、Nosan)は自由摂取とした。
なお、本研究における動物実験、実験動物の飼育および保管などに関する基準(昭和55年3月27日、総理府告示第6号)、ならびに東京海洋大学動物実験等取扱規則に基づき、動物実験委員会の承認を得て実施した。

3)マウス脂質負荷試験

マウスは一晩絶食したのち、実験当日の体重が均等になるように群分けして、脂質負荷試験に用いた。
脂質混合溶液は、コーン油(8mL)にコレステロール146mgとコール酸ナトリウム75mgを溶解して調製し、ゾンデを用いてマウスに強制経口投与した(8mL/kg)。
同時に蒸留水またはサンプル溶液(マウス1匹あたり1.0mL)を経口投与して、実験を開始した。経時的に採血を行なったが、試験中も絶食を継続させ、水は自由摂取とした。

4)マウスグリセロール・脂肪酸負荷試験

前述の脂質負荷試験と同様に実施した。
この試験はリパーゼによってトリグリセリドから生じるグリセロールや脂肪酸などの分解物が、腸管から吸収される段階を調べるために実施した。
ここでは、トリグリセリドがグリセロールと脂肪酸とに完全に分解されたと仮定して、分子量の割合からグリセロール:オレイン酸=1:9の割合で混合した溶液をマウスに経口投与して、経時的に血中のグリセロール値と遊離脂肪酸値を測定した。

5)血液パラメーターの測定

マウス尾静派から採血した血液から速やかに血漿を調製して、以下の市販測定キットを用いて、各血液パラメーターを測定した。
すなわち、血中トリグリセリド値(TG)はトリグリセライドE-テストワコー(和光純薬)を用いて、血中総コレステロール値はコレステロール E-テストワコー(和光純薬)を用いて、血中遊離脂肪酸値はNEFA C-テストワコー(和光純薬)を用いて、血中グリセロール値はFree glycerol reagent(Sigma Aldrich)を用いて、それぞれ測定した。

6)リパーゼ阻害試験

ブタ膵臓リパーゼ(Sigma Aldrich)の加水分解活性を、市販測定キットLipase KitS(DS Pharma)を用いて測定した。
操作や条件はキットの説明書に従った。合成基質から加水分解によって生じたグリセロール誘導体を発色させて415nmの吸光度で定量することで、リパーゼ活性とした。
サンプルを入れていないコントロールの活性を100%として、サンプルのリパーゼ阻害作用を50%阻害濃度IC50で評価した。

7)統計処理

データは平均値±標準誤差で示した。コントロール群に対してStudent t-testを実施して、p値が0.05未満の場合に有意な差であると判断した。

2.結果と考察

図1
脂質負荷マウスにおける血中トリグリセリド値の経時変化に及ぼす大豆由来発酵物の影響

一晩絶食させた雄性ddYマウス(6週齢)に、強制的に脂質混合溶液を投与して、血漿中のトリグリセリド値を経時的に測定した。
コントロール群(◆)では蒸留水を、サンプル投与群では、大豆由来発酵物(□)、発酵0時間(○)、豆乳(◇)をそれぞれ脂質と同時に投与した。
データは6匹の平均値±標準誤差で示した。
*:p<0.05、**:p<0.01 vs コントロール群。

図2
脂質負荷マウスにおける血中総コレステロール値の経時変化に及ぼす大豆由来発酵物の影響

一晩絶食させた雄性ddYマウス(6週齢)に、強制的に脂質混合溶液を投与して、血漿中の総コレステロール値を経時的に測定した。
コントロール群(◆)では蒸留水を、サンプル投与群では、大豆由来発酵物(□)、発酵0時間(○)、豆乳(◇)をそれぞれ脂質混合液と同時に投与した。
データは6匹の平均値±標準誤差で示した。
*:p<0.05 vs コントロール群。

脂質混合物を負荷したマウスにおいて、経時的な血中トリグリセリド値の変化を図1に示した。コントロール群では、負荷後4時間目に血中トリグリセリド値が最大となり、その後に減少に転じた。
これに対して、豆乳サンプル投与群では有意な変化が見られず、発酵0時間サンプル投与群では4時間目において上昇を抑制する傾向を示した。
一方で、発酵120時間サンプル投与群においては、1~4時間目まで継続的な上昇抑制作用が見られ、負荷後1時間目、2時間目においては、コントロール群に対して有意な低値を示した。
この結果より、発酵0時間サンプル投与群よりも発酵120時間サンプル投与群では、顕著な抑制作用を閉めることが示唆された。

同じ実験において得られた血中総コレステロール値の経時変化を図2に示した。
コントロール群では、負荷後4時間目に血中総コレステロール値が最大となり、その後に減少に転じた。
これに対して、豆乳サンプル投与群では有意な変化が見られず、発酵0時間サンプル投与群、発酵120時間サンプル投与群では、同程度の抑制作用を示した。
このように大豆由来発酵物は脂質混合液負荷による血液中のコレステロールやトリグリセリドの濃度上昇を有意に抑制することから、腸管からの脂質の過剰吸収を抑制する作用を有することが示唆された。
この作用は発酵によって生産された成分によるものと推定しているが、その確認のためには発酵条件を変えて作用を確認する検討試験が必要だと考えられる。
次に、トリグリセリドの吸収抑制作用について、いくつかの試験によりそのメカニズム推定を試みた。中性脂肪が気になる方へ向けた特定保健用食品に多く採用されている作用メカニズムの一つに脂質分解酵素であるリパーゼの活性を阻害するものがあるため、まずその可能性を検証した。その結果、大豆由来発酵物は、in vitro試験において濃度依存的なリパーゼ阻害作用を示し、そのIC50値は1.56mg/mLと算出された。同じ方法で測定したリパーゼ阻害作用を示す素材のIC50値は、コガネタケヤシ葉エキスで250~300μg/mL(9)、ココア抽出物で47μg/mL(10)、プーアル葉エキスで101.6μg/mL(11)、没食子酸で9.2μg/mL(11)であったことから、大豆由来発酵物のリパーゼ阻害作用は比較的弱く、その作用だけでは脂質吸収抑制作用を説明できないと考えられる。リパーゼ阻害以外の作用メカニズムとしては、難消化性デキストリンに見られる見せる形成阻害作用(12)、ドクダミ葉抽出物に見られるグリセロールおよび脂肪酸の吸収抑制作用(13)などの報告が見られるが、ここではグリセロールと脂肪酸の吸収抑制作用を確認した。
図3に結果を示した通り、コントロール群に対して大豆由来発酵物(120時間)はグリセロールの吸収を有意に抑制することが示された。
一方で、脂肪酸の取り組みについては、少なくとも90分までのデータでは有意な変化は示されなかった。
これらの結果から、大豆由来発酵物(120時間)の脂質吸収抑制作用のメカニズムとして、リパーゼ阻害作用とグリセロール吸収抑制作用の両方が関与する可能性が推定された。
本稿で紹介した実験データのみでは、作用メカニズムの絞り込みには至っていないが、多種類の乳酸菌によって生産された成分が含まれる大豆由来発酵物には、数種類の関与成分が共存することで、機能性を発現している可能性も示唆されるところである。

近年の報告によるとLactobacillusの一種には、マウスに摂取させることで抗肥満作用を発現するものがあり、作用メカニズムや関与成分が研究されている(14)。
この菌株LP14が生産する成分は、高脂肪食飼育一肥満モデルマウスにおいて、11週間の投与で脂肪組織重量と血中総コレステロール値を低下させた。
この作用メカニズムは脂肪細胞に働きかけることが培養細胞を用いた実験によって示されたが、脂質負荷マウスを用いた試験においては血中トリグリセリドの上昇を抑制しないという実験結果も合わせて得られており、本稿で紹介した作用や成分とは異なるものだと考えられる。
本稿で紹介しただいず由来発酵物について、関与成分は推測の域を出ないが、乳酸菌が一般に産生する有機酸や大豆に含まれる食物繊維ではない可能性が示唆されることからその解明が待たれる。
適切な大豆由来発酵物の摂取は、腸管から過剰な脂質吸収を抑制することで、血中トリグリセリド値の上昇を緩和することから、今後の研究成果によっては高脂血症や肥満の予防に資する機能性食品として注目されるものと考えられる。

図3
グリセロール・脂肪酸負荷マウスにおける血中グリセロール値(A)、血中遊離脂肪酸値(B)の経時変化に及ぼす大豆由来発酵物の影響

一晩絶食させた雄性ddYマウス(6週齢)に、グリセロール・脂肪酸混合溶液を投与して、血漿中のグリセロール値(A)と遊離脂肪酸値(B)を経時的に測定した。
コントロール群(◆)では蒸留水を、サンプル投与群では、大豆由来発酵物(120時間)(□)をそれぞれグリセロール・脂肪酸混合液と同時に投与した。
データは8匹の平均値±標準誤差で示した。
**:p<0.01 vs コントロール群。

おわりに

本報告において、大豆由来発酵物の生理作用について検討したところ、脂質混合物負荷マウスにおいて血中トリグリセリド値の上昇を有意に抑制する事が示された。
この作用は発行させていないサンプルよりも顕著に増強していたことから、共棲培養された乳酸菌によって大豆成分から代謝された成分が関与していると推定される。
現段階では作用メカニズムに関しては特定する実験結果は得られていないが、リパーゼ阻害作用、ならびに脂質分解物の吸収抑制作用が関与する可能性が示された。
大豆由来発酵物がddYマウスにおいて脂質の吸収を抑制したことから、継続した応用研究により普段の食生活に取り入れることができれば、脂質の過剰摂取を抑える作用をもつ発酵食品として、私たちの健康の維持・役立っていくことが期待できる。

謝辞
本研究を遂行するにあたり、サンプルの調整並びに供給をしてくださった㈱光英科学研究所に深く感謝いたします。

参考文献
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(2)光岡知足:機能性食品ープロバイオティクス,プレバイオティクス,バイオジェニックス,「腸内フローラとプロバイオティクス(光岡知足編)」,1-13,学会出版センター(1998)
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こやま・ともゆき/Tomoyuki Koyama
1999年 琉球大・博士課程修了 医学(博士)、2000年 琉球大・博士研究員、2001年 名古屋大・研究機関研究員、2004年 名古屋大・理学部有機化学・特任講師、2006年東京海洋大・ヘルスフード科学(中島薫一郎記念)寄附講座・特任准教授、2012年 東京海洋大・食品生産科学部門食品栄養化学・准教授(現職)
専門・研究テーマ:食品栄養化学、食品生体機能学、海洋天然物有機化学
最近の主な研究や活動:食品に含まれる機能性成分とその生理作用の解明、実験動物における食品の機能性評価、生理活性成分の単離・構造決定
著書・論文(共著):
Anthi-hyperglycemic effects of sugar maple Acer saccharum and its constituent acertannin, Food Chem.,123,390-394(2010)
Anti-inflammatory effects of seeds of the tropical fruits camucamu(Myrciaria dubia). J.Nutr.Sci.Vitaminol.,57,104-107(2011)
Suppressive effect of peach leaf extract on glucose absorption from the small intestine of mice. Biosci.Biotechnol.Biochem.,76,89-94(2012)など

しろさき・みゆき/Miyuki Shirosaki
東京海洋大学大学院 海洋科学技術研究科 食品生産科学部門 食品栄養化学

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